おとなの絵本クラブ

大人目線で楽しむ絵本や児童書の記録。調布市・つつじヶ丘の古民家「もえぎ家」を拠点に、絵本を読み合い、語り合う会を開催しています。

田舎に心惹かれる都会っ子家族

時におふざけが過ぎて、周りから「大変だね」なんて言われることもある8歳の息子。それでも小さい頃は、本当に大人しくて、ぽや〜っとしている子どもだった。外で遊ぶよりも、家の中で絵を描いたりおままごとをするのが好き。だから超インドア派の子なんだと思っていた。

そんな彼がいつの頃からか、自然豊かなところへ行くと、高い崖や木を登るようになり始めた。その姿は、野性の目覚めとでもいうかのよう……。ひょんなきっかけで、家族キャンプデビューすると、ますます自然の中でアクティブに遊ぶようになっていった。おかげで、都会育ちであまり自然に馴染みのなかった私も、今ではすっかりキャンプ好きだ。

 

いま住んでいる調布は、都会と田舎の中間のような場所。都心にアクセスしやすいけれど、川や里山、田んぼや畑もまだまだ残る自然豊かな土地で、とても住み心地がいい。息子の大好きな木登りができる場所もたくさんある。それでも、息子の野性を引き出すには少し物足りないような気もして、より自然豊かなところに連れて行きたいなぁなんて常々考えてしまう。

 

先日のゴールデンウィークには、友人のセカンドハウスに出かけ、また私の中の自然欲(?)が引き出されてしまった。千葉の外房総にある、里山に囲まれた自然豊かな場所。子どもが遊べるブランコ付きの小さな小屋(?)のある庭と、周りには田んぼに畑、山、山、山。2泊3日の間、買い物以外は外に出かけることもなかったけれど、まったく飽きることなくその家で遊び倒した。

子ども達は何をするでもなくひたすら走り回っり、庭の小屋や木に登ったり、田んぼに繰り出しては、用水路でニホンイモリ、小さなカエル、カニなどの生き物を捕まえたり……。どんどん新しい遊びを見つけ出す。すぐに「やることないつまんない〜。テレビ見たい〜」なんて言い出す普段の彼らとは、まるで別人だ。もちろん、遊び相手がいるとか、長期休みだとか、普段とは違う状況であることも関係している。けれど、遊びを自分で作り出すワクワク感は、与えられた道具で遊ぶのとはまったく異なる、自然の中ならではの楽しみのような気がする。

自然の中で遊ぶ子どもたちは、本当に生き生きしていて、いつも以上に愛おしく感じる。息子は普段、気に入らないことがあると必要以上に大きな声を出したり、周りに当たり散らしたりして手に余ることがあるのだが、そんなことは一切ない。発散しきれないエネルギーを、自然が吸収してくれるみたい。普段ならつい小うるさくしてしまう親も、危険なこと以外は寛容でいられる。これもまた自然の偉大さのせいじゃなかろうか。

 

数日前に図書館で借りてきた『もりのこびとたち』に、3歳の娘がハマっている。森の中で自由な遊びを楽しむこびとの姿に、あのセカンドハウスで生き生きと遊んでいた自分の子どもたちが重なる。 

もりのこびとたち (世界傑作絵本シリーズ―スウェーデンの絵本)

もりのこびとたち (世界傑作絵本シリーズ―スウェーデンの絵本)

 

リスとかくれんぼ、うさぎと一緒にそり遊び、小川でダム作り、妖精とシーソーごっこ……。私たちも森で暮らしていたら、おもちゃやテレビなどに頼らなくても、自由に遊びを発掘するんだろうなぁ。絵も美しく、何度読んでもうっとりと魅せられて飽きない。

自然の豊かさや美しさだけでなく、厳しさもきちんと描かれているのが、ファンタジーでありながらリアリティがあって、この絵本の好きなところ。毒キノコの見分け方、寒い冬に備えた食料の備蓄法、狩人の罠のおそろしさ……生きるために必要な知恵は、お父さんやお母さん、賢いふくろうがきちんと教えてくれる。さりげな〜く親や目上の人への畏敬の念なんかも描かれているようで、なんだかハッとさせられる。

 

 

自然は遊びの宝庫で、すべてを包んでくれる偉大さがある。自分の子ども達にも、できるだけもっと自然の中で、自由で決まりのない遊びを楽しんでほしい。それは、おもちゃやテレビなどでの楽しみより、ずっと心と体を育んでくれるだろうし、机の上での勉強よりも、生きる知恵となるはず。

その思いは、自然豊かな土地に行く度に強くなって、移住したい気持ちに駆られてしまう。調布でも十分、自然遊びができる環境は残っているのだけれど……。とは言え、私自身も都会育ち。こびとのお父さんお母さんのように、自然の中で逞しく生きていく知恵をきちんと教えられるかと言われれば、正直自信がない。息子も「山が綺麗なところに住んでみたいな〜」なんて口にはするものの、都会の刺激的な環境や、テレビ、ゲームへの関心も強くなっているから、いざ住んでみたら刺激に飢えてしまうのでは……とも思ってしまう。

 

 

我ら、田舎に心惹かれる都会っ子家族。心と体の栄養を求めて、これからも何度となく、より自然豊かな場所へ移住したい熱が湧いてしまうのだろう。でも、せっかく自然が残る土地で暮らしているんだから、ここでできる楽しみ方を満喫すればいいじゃないか。めいっぱい自然を楽しみたくなった時に、時々そういう場所に足を運べばいい。『もりのこびとたち』で妄想体験したっていい。それが今の私たちにはきっとちょうどういいんだろうから。