おとなの絵本クラブ

大人目線で楽しむ絵本や児童書の記録。調布市・つつじヶ丘の古民家「もえぎ家」を拠点に、絵本を読み合い、語り合う会を開催しています。

うごめく季節

どうもむずむずする、この季節。

「あのお花かわいい! お母さんはどのお花が好き?」

菜の花、ツツジ、チューリップ……道端を彩る花々を見つけては、子どもとの会話に心が踊る。

「おうちに連れて帰る〜!」

アリ、テントウムシ、チョウ……土の下から出てきた虫たちを見つけては捕まえようとして、なかなか家にたどり着かない。

植物や虫のうごめきのおかげで、なんだかもぞもぞしちゃう。

「何か新しいことでも始めようかな」

そんなことを思ったりするのは、地面の下で、植物や生き物がうごめきだしているせい? 地面の上で暮らしている私たちも、影響を受けないはずがないような?

 

春は前から好きだったけれど、このうごめく感じが好きなんだって、最近気づきました。漢字にすると「蠢く」。虫の上に春が乗っかっている。地面の下に眠っていたものが外に出てくるから、ウキウキするのかなぁ。

うごめく感じが好きだと気付きをくれたのが『根っこのこどもたち目をさます』という絵本。先日のブログに書いた、ゴールデンウィークにお邪魔した友人のおうちで出会いました。絶妙に描かれた春の訪れのウキウキ感に、一目惚れ。

根っこのこどもたち目をさます

根っこのこどもたち目をさます

  • 作者: ヘレン・ディーンフィッシュ,ジビレ・フォンオルファース,Helen Dean Fish,Sibylle Von Olfers,いしいもも
  • 出版社/メーカー: 童話館出版
  • 発売日: 2003/04
  • メディア: 大型本
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季節が冬から春に向かう頃、「土のおかあさん」が「根っこのこどもたち」を起こすところから物語は始まります。こどもたちは春に着る服を縫ったり、眠っている虫達を起こしたりして春支度。いよいよ春が訪れると、虫や植物が土の下から上へ出て行く。あらゆる生き物が春の訪れを喜び、こどもたちと一緒に野山や小川で遊ぶ。冷たい風が吹き始めると、こどもたちは土の下にいるおかあさんのところへ帰って行き、次の年の春を待つ。今の季節にぴったりの絵本です。

 

この絵本は、1906年にドイツの絵本作家ジビュレ・フォン・オルファースによって書かれたもの。当時のドイツの家庭では、子ども部屋になくてはならないものの一つだったようです。日本では『ねっこぼっこ』というタイトルで1982年に福武書店から出版されていますが、こちらは絶版……。2005年に平凡社から、同じく『ねっこぼっこ』として出版されていて、こちらはまだ手に入るけれど、前者とは訳者が異なります。(福武書店のほうの訳者は生野幸吉さん、平凡社のほうの訳者は、秦理絵子さん)

ねっこぼっこ

ねっこぼっこ

 

対して『根っこのこどもたち目をさます』の訳者は、石井桃子さん。『ねっこぼっこ』のほうはいずれも、どちらかというと詩的な日本語訳で、淡々と流れる感じ。石井桃子さんの訳は物語性が強くて、私も娘もこちらのほうがお気に入り。「土のおかあさん」と「根っこのこどもたち」という表現も絶妙。でも、詩的な訳のほうが好きという人もいるだろうし、いろいろな訳が出ている絵本は、読み比べも楽しいです。

f:id:otonanoehonclub:20170514081200j:plain『ねっこぼっこ』の2冊は、訳だけでなく、フォントなども異なります。絶版となっている絵本も、図書館で借りて読めました。

初夏の間は親から離れて自由に遊び、寒くなると「土のおかあさん」のもとに帰ってくる「根っこのこどもたち」。「母なる大地」という言葉を彷彿させ、子どもたちを待ち受けるお母さんの「根っこ」の絵が、なんだか子宮のように見えてきます。私も子ども達にとって、安心して帰れる居場所のような大きい存在でありたいものです。うーん、まだまだだなぁ……!