理想と現実の間で…ああ悩ましき素晴らしき母なる人生
「あぁ、私ってダメな母親だな〜…」
子どもが生まれてから今まで何度そう思っただろう。
はじめて子どもが生まれた8年前は、ただただ幸せだった。子ども好きというわけではないし、すごく望んで授かったというよりは、思いがけず訪れた妊娠。その、心の準備ゼロでスタートする感じが、逆に良かったのだと思う。
赤ちゃんってこんなに手足が小さいのか!自分からお乳が出るのか! 寝顔はまるで天使じゃないか! 寝る間も惜しんで見つめ続けていたい!
……ちょっとしたことにいちいち感動し、幸せいっぱい。それが1人目の産後。もちろん大変なこともあったけれど、それよりも圧倒的に幸せが勝っていた。
子どもが大きくなるにつれ、私は子育てに関する知識や情報をどんどん得ることになる。ママ友、先輩ママ、子育て支援者、ここ数年でどんどん普及したスマホなど、情報源はもはや無限。子育てに関して無知すぎた私には「そうだったのか!知らなかった!」と開眼。興奮して、あらゆる知識や情報を、それはそれは夢中で吸収した。赤ちゃんの生活リズム、食事のこと、しつけなど……。知らず知らずのうちに「理想の子育て」像が頭の中に出来上がっていた。
それからかもしれない。「私ってダメな母親だな〜…」と思うことが増えたのは。
それまでも「何やってんだ私!」と自分にツッコミたくなることがあっても、「てへっ」程度で済んでいたことが、ガクッと落ち込むことが増えた。
「子どもの肌の湿疹がひどくなったなぁ(私が昨日食べたものが悪かったのだろうか?)」
「子どもがテレビばかり見たがるなぁ(私、子育てサボってない?)」
「朝なかなか起きないなぁ(夜更かしが続いているせいだろうか?)」
「保育園に行くの嫌がるなぁ(仕事せず子どものそばにいるのがいいのだろうか?)」
こうして文字にしてみると「考えすぎ!」と思う。でも、理想と現実の間でさまよっていた渦中の私は本気である。そろそろ2人目を……と考え始めると、これがますますひどい。まず、思いがけず訪れた1人目のようにはいかず、なかなか授かれない。周囲の「2人目妊娠」ニュースに、ひたすら焦る。焦る。焦る。ようやく授かったと思えば流産。いざ生まれたら生まれたで、また「理想と現実のギャップ」に悩む。
2人目ともなれば子育てに慣れて楽になるかと思っていたのに、まったく逆。2人目が欲しいと思う期間が少し長かった分、「次の子が生まれたら、こんな風に子育てしたい」という理想が膨らみすぎたのだと思う。理想のようにはいかない現実。うまくいかない理由を、いちいち自分のせいにしては苦しくなる。1人目の産後は、あんなに幸せでたまらなかったのに。せっかく授かった2人目なのに、こんなに苦しいのはなんでなんだろう……。
母というものは、こんなにも悩ましい生き物なのだろうか。
いや、目の前にいる我が子の笑顔を見ると、やっぱり幸せな気持ちに包まれるのだ。
寝顔が愛おしくてたまらないのだ。
ご飯を美味しそうに頬張るほっぺたが、
知らない世界を知った驚きの瞳が、
何かに向かって走り寄って行く後ろ姿が、
「おかあさ〜ん」と言って駆け寄ってくるその顔、手足、体の動きが。
そのすべてが、たしかに可愛くてたまらないのだ。
そう、私が見ているのは「理想の子育て」というまぼろしではなく、目の前の我が子。
過去や未来を見すぎていたかもしれない。過去に子育てを経験してきた人たちの知恵や、こんな子育てをしたいという自分の理想。それも、もちろん子育ての手助けになるし、必要な時には頼っていいものだと思う。
でも、一番大事なことは。
過去でも未来でもなく、目の前のいのちと向き合うこと。
せっかくの子育てを悩ましいものにしたくない。
大事ないのちと真正面から向き合える母という役割。
それはもっと、素晴らしきものなはず!
「目の前のいのちと向き合う」
『まぼろしの小さい犬』は、多分そんなメッセージが隠された児童書。犬を飼いたくても飼えず、犬への思いをどんどんどんどん募らせる少年の心の動きが、細やかに描かれている。もう絶版となってしまっているのが残念。
- 作者: フィリパピアス,アントニー・メイトランド,Philippa Pearce,猪熊葉子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1989/07/06
- メディア: 単行本
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子どもの頃には児童書に馴染みのなかった私だけれど、最近その魅力にどっぷりハマっている。大人向けの小説ほどは読むのに時間がかからないし、救いのない終わり方とかがないのがいい。変に恋愛とか絡んでこないし。恋愛が絡んでくると、どうしてもそっちに気を取られてしまって、物語の本質に向き合いづらくなってしまうから……。絵本もそうだけれど、子どもの繊細な心の動きを物語に落とし込める作家って、本当にすごいと思う。児童書、本当におもしろい!
そのうち「おとなの児童書クラブ」もやってみたいなあ、なんて。
次回の「おとなの絵本クラブ」は12/8(木) 10:00〜
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